残業ゼロでも年収600万円超の町工場!経営者は何をしたのか?
今回は、以前中小企業診断士の研修で聴いた、株式会社吉原精工の吉原会長のご講演についてお伝えします。
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昨年話題になったユニーク経営のはなし
日経新聞やNHKを始め、昨年多くのマスコミで取り上げられているので、この会社をご存知のかたも多いと思います。この会社は神奈川県の綾瀬市にあるワイヤーカット加工をする町工場で、その吉原博会長から「社員7人の町工場、残業ゼロで年収600万円超~そこに至ったユニーク経営とは~」というタイトルのご講演をうかがった時の、印象的だったことをお伝えします。
正直なところタイトルだけを見ると、いまさかんに言われている「働き方改革」をテーマにした、理想を語るような話ではないのかと少し警戒して聴き始めたのですが、その中身はとても多くのことを気づかされる、まさに経営そのもののお話でした。
株式会社吉原精工
1980年、吉原会長が30歳の時に1人で機械1台から創業した吉原精工は、バブル崩壊までには工場3棟を持ち、20人の社員やパートが深夜まで残業して受注をこなすところまで成長していました。
その後の3度の倒産危機に見舞われますが、1回目の危機を乗り切るために行ったリストラでやめた社員が「会社にいる夢を何度も見る」という吉原会長は、その後の危機では社員をやめさせることなく「社員目線からの改革」で乗り切ってきたということです。
改革前の問題点
吉原会長は改革前の問題点について次のように言っています。
- できていない社員ほど自覚がなく変化を嫌う。プライドだけは非常に高い。
- 勤続年数に比例して頑固、自己流、個人主義、協調性なしになる職人。
- 社員数20人前後での派閥化、効率の悪い師弟関係。
- 倒産危機ごとの経営改革を理解できない幹部達。
- 自分の顧客を持って退社し起業する社員(4人起業、3人破綻)
- 振り回される金型業界からの仕事。
- 本人のスキル不足や上司の指示不足による待機時間の無駄
社員が喜ぶことを経営の「手段」として実行する
- 給料を残業代込の固定制にする。
- 段階的に残業を減らし最後はゼロにする。
- 年3回10日間の連続休暇がある。
- 利益の半分をボーナスとして社員に「均等に」還元する。
吉原会長はこのようなことを行いましたが、印象的だったのが「テレビのキャスターは『経営者の決断があった』というが、私は決断なんてしていない。やってみて駄目ならいつでもやめるつもりだった。」という言葉です。できることはすぐに実行して、駄目なら次の手を打つということなんですね。
そして、実際に社員が喜ぶような働き方に変えられたたのは、次のような取り組みがあったからです。
- ベテラン社員のノウハウの見える化・共有で生産性を上げる。
- 金型業界からの儲からない仕事を断ることと、それができるような営業の工夫と仕組み化。
- 効率化で浮いたコストを顧客に還元することで、受注が増える好循環を生み出す。
また、吉原精工では「売上」「損益」「借入金の額」などを社員にオープンにすることで、繁忙期の後に昇給やボーナスへの過度の期待を寄せないよう、しっかり情報開示をしているそうですよ。
残業ゼロで変わった事
吉原会長は残業ゼロの効果について次のように言っています。
- 社員は残業ありきだと仕事が遅くなるが、無しだと定時で帰る前提で効率よく動く。
- 社員は限られた時間を有効に使い、常に効率化を考えて作業する癖がつく。
- 社員は指示待ちの状態から自分で考えて行動し待機時間がゼロに近づく。
- 社員は毎日の疲労感が少なくミスの減少につながる。
- 社員は家族サービス、趣味の時間、健康面で充実した生活がおくれる。
- 経営者は定時時間内の勝負となり付加価値の高い案件を模索する癖がつく。
- 会社はプライベートを大切にする会社となり優秀な人材確保につながる。
世間の注目を集めたことで
吉原会長はマスコミで取り上げられ世間の注目を集めたことを「今回の騒動」と表現していますが、その影響で16人から履歴書の送付があったそうです。これだけ人手不足の世の中で、中小企業でも「選んで」採用ができるということですね。
週休3日の可能性
マスコミの取材に何気なく口にした「週休3日制」も現実のものとして検討を始めているそうです。そのことで、
- 社員 残業ゼロ週休3日制(週32時間勤務)でゆとりある生活、優秀な人材確保。
- 会社 最終的に6グループ週7日24時間稼働で大幅な売り上げ向上。
- 顧客 日曜稼働で全日短納期対応。利益拡大を還元するコストダウン。
三方良し。と吉原会長は言っています。
実践に基づく貴重なお話。吉原会長ほんとうにありがとうございました。