やる気ある人材を採用するためにやることとやってはいけないこと
知名度の低い中小企業が人手不足を解消するために、応募者の質を高めて経営目標達成に貢献する人材を採用するには、どうすれば良いのでしょうか。
今回は人手不足企業の経営者や人事担当者の方に向けて、満足できる採用をするためのヒントをお伝えしていきます。
Contents
「辞めない採用」4つのポイント
まずはじめに、「辞めない採用」でしなければいけない事には大きく4つのポイントがあります。
この4つのポイントをあなたの会社でも実践すれば、知名度が低い中小企業でも安定して社員を採用・定着できるようになります。
見つけられる
求職者にあなたの会社を見つけてもらう。
選ばれる
数ある会社の中からあなたの会社を選んでもらう。
この2つについては、「応募を増やすために知名度の低い中小企業でもできることとは」でお伝えしているので、そちらをご参照ください。
見極める
辞めずに貢献し続ける人を見極める。
求職者に「選んで」もらった後はこちらが「選ぶ」番です。「選ばれる」ことに徹したあとはしっかり「選ぶ」ことが、辞めない採用のポイントです。
辞めさせない
採用したひとを辞めさせない。
辞めない人を採用した後は、今いる人もあわせて「辞めさせない」ということです。当たり前のことですが、社内の辞めてしまう原因を解消することで、定着率の高い会社になっていきます。
それでは、さっそく「ポイント3」辞めずに貢献し続ける人を見極める、について詳しく見ていきましょう。
即戦力は採ってはいけない
あなたの会社が中途採用をする理由ってなんでしょう。
もし、即戦力が欲しいからという理由なら、それは失敗の始まりかもしれません。気を付けてください。
今のような売り手市場のなかで、中小企業が即戦力を求めて中途採用することは、事業の拡大や欠員補充という点で当然のことですが、いま即戦力採用をするのは極めてリスクが大きいと思ってください。
あなたの会社が同業あるいは同じ職種を雇い入れている会社の中で、皆が目指す憧れのナンバーワンの会社であれば別ですが。
つまり、いま同じ職種で働くためにあえて転職を選ぶ人は「訳あり」だということです。
「訳あり」かもしれない即戦力を採用するリスクを取るくらいなら、新卒でも第二新卒でも、あるいは未経験者でも、成長して会社に貢献する「素質」(ポテンシャル)を見抜いて採用する方がよっぽど良い結果を生むでしょう。
完璧を望んではいけないものとは
社員を採用するとなると、採用や教育コスト以上に雇い入れた後にかかる人件費の方が莫大な金額になるので、言葉を選ばずに言えば採用したひとの「あたり」「はずれ」は経営に大きなインパクトを与えます。
でもこの「選ぶ」というプロセスについては残念ながら「完璧」はありません。
こちらが会社の魅力を伝えれば伝えるほど「ここで働きたい!」と思った応募者は内定がほしいので、とにかく自分を良く見せようとします。
適性検査や限られた時間内での面接だけで全てを見抜き、100%間違いの無い判定をすることは無理だという前提で、採用を行うのが賢明でしょう。
ただ、その中でもできる限りの手を尽くして、より良い人が採用できるように見極める力を磨きたいところです。
将来にわたって会社に貢献できる人材を見極めるポイントを、1つだけ上げるとしたらなんでしょう。
スキル・経験値・コミュニケーション・人間性・地頭の良さ・・・
私はあえて1つだけ挙げるとしたら、物事の見かた捉え方が「内向きでなく外向き」かという視点で応募者を見ることをお勧めしています。
企業で働くうえではこのスタンスの違いが、周りとの協調性や顧客からの信頼にとどまらず、会社の方針の理解や本人の長期的な業務スキルアップまで、全てにつながるからです。
「内向き」か「外向き」かを見極めるポイントや、面接時の質問例については、のちほどお伝えしていきます。
選考する前に必ずする事とは
選考する前にまずやっておくこととして、どういう目的でどんな人を採用するのか、関係者で認識を統一しておくことが大事です。
たとえば単純作業を正確にやってもらうための作業員が必要なのに、発想力があり新規事業の開発に向いているクリエイティブな人を採用してしまったら、仕事の遂行の面でも本人のモチベーションの面でも、全くのミスマッチになるので、採用プロセスの最初の段階で「人材要件定義」はしっかりやっておきましょう。
人材要件を明確にしたら、その要件が求めているのがどのレベルなのかの共通認識を持っておきます。
配属部署が決まっているような採用であればその部署の受け入れ側の要求するレベルとの摺り合わせも重要です。
また、中小企業でやってしまいがちなのが、人事の担当者は配属予定先のマネージャーの要望ばかり聞いて「今必要な人材」という目線に偏ってしまうということです。
社長は「将来の事業展開」を見据えて、そこではどういう仕事を任せていくかという「将来の可能性」と「今の仕事」とのバランスで人材を見ているものです。
でも担当者はそんなことを知らないので、この認識の統一ができていないと、書類選考や一次面接で貴重な人材を落としてしまうということが起きます。
選考の初期段階に社長が直接関わらない会社の場合には、次の2つのルールを決めておくと良いでしょう。
1)特定の学歴・職歴のある応募者は必ず選考を通過させる。
2)迷ったら最終(社長)面接に判断をゆだねる。
面接で見抜く応募者の3類型
「内向き」か「外向き」か、これを見極めるポイントとして応募者を次の3つに分類するのが解りやすい方法です。
興味型
対人スキルが高い方の場合、一見すると期待できる人材のように見えてしまいます。
でも面接で会話のキャッチボールを繰り返していると、自分の興味・関心ばかりが全ての価値基準になっているタイプです。
このような人は自分の興味がなくなると、途端にパフォーマンスが下がり最終的には退職してしまうリスクが高いタイプです。
成長型
このタイプも、最初の印象は優秀に見えてしまうので、しっかり見抜かないと意外と厄介です。
職場での努力の目的が「会社の業績」でなく「自分の成長」というタイプです。
会社は社員個人を成長させることが目的ではなく、会社にとって社員の成長は「手段」であり、結果的にそれが個人の成長つながるのが理想です。
このタイプは経営者の方針を素直に受け入れて、自分の事として努力することが苦手な場合が多く見られます。
貢献型
理想はこのタイプです。ただこのタイプは少ないのも事実ですが、是非ここを見つけ出していきたいものです。
たとえ面接中のリップサービスでも良いでのす。面接官や会社側が何を求めているのかを理解して、戦略的に自分を表現できるというだけで充分期待できると言えるでしょう。
つまり意識が外に向き、相手が期待することを的確に表現できるタイプです。
このタイプは営業に最適ですし、こんな人が社内にいればどの部署でも活性化させることができます。
興味型→成長型→貢献型の順に、定着率と会社への貢献度は上がっていくのですが、必ずしもどれかにピッタリはまるわけではないことと、実際には3つ目の「貢献型」に出会えることは数少ないということは認識しておいてください。
応募者の将来像をあぶり出すたった3つの質問とは
これらの見極めポイント3類型をあぶり出すための質問は決して難しいものではありません。
大事なのは、以下のような3つの質問を投げかけて答えを丁寧に聴く事です。
答えの一言ひとことから上記のどのタイプ(どのレベル)かが見えてきます。
1)なぜ当社で働こうと思ったのか。(目的)
2)当社に入社したら何をしていきたいのか。(目標)
3)それはなぜか。(理由)
たったこれだけです。この3つへの答えが「興味型」「成長型」「貢献型」の3類型のどれに近いかを見極めましょう。
中途採用の場合にはこれに加えて「なぜ前職を辞めた(辞める)のですか」と聞いてください。
ただし言いづらい事情があるかもしれないので「もし差し支えなければ教えてください」と丁寧に質問することに注意が必要です。
ここをしっかり聞いて、同じ理由で辞めていくリスクがないか、あなたの会社の環境を振り返ってみてください。
そして「5年後(あるいは10年後)にあなたはどうなっていると思いますか」の2点を加えた5つの質問で充分でしょう。
この質問は「興味型」「成長型」「貢献型」の3類型を見極めるための、補足になるのと、長期的な視点の有無が確認できて、幹部候補としての素養の確認にもなります。
アルバイトくらいしか働いた経験のない新卒にこの質問をしても、せいぜい「5年後には一人前になって後輩の指導をしているようになりたいです!」程度か、逆に根拠のないビッグマウスを聞かされるだけでしょう。
ただし、新卒の学生がこの質問に対して、前向きで具体的かつ的確な答えを出してきた場合には、残念ながら5年後にはあなたの会社にはもういないかもしれません。
そのような人材は独立・起業できるタイプなので、レベルの高い学生の応募がある会社は、リスク管理の意味でもこの質問は有効かもしれません。
もちろんその他にもスキルや興味、得意分野(科目)や趣味などを聴きながら、人間性の観察をするのも良いでしょう。
選考中に必ず伝える大事な事と3つの効果
「辞めない採用」のために、選考プロセスの中で応募者へ必ず伝えておきたい特に大事なことがひとつあります。
それは負の側面や弱点つまり会社の「駄目なところ」をしっかり伝えるということです。
最適なタイミングは面接中です。説明会を行う会社や応募者の多い会社の場合は、説明会で伝えるのも良いでしょう。
伝え方のポイントは次の4点です。
1)重要な点にしぼって「負の側面」「弱点」をしっかりと伝える。
2)労働環境に関わるところは特にもらさずに伝える。
3)「負の側面」「弱点」を改善する目標・計画がある場合は、そのことも必ず伝える。
4)「負の側面」「弱点」の改善に社員が関わることができる内容の場合、応募者へ「一緒に改善したい」と明確に伝えること。
説明会なのか面接なのか、内容次第では求人広告へ掲載しても良いですが、伝えるタイミングや方法・言葉・誰が言うのかなど慎重な検討が必要です。
いずれにしても必ず伝えることが大事です。
辞めない採用にとって「駄目なところを伝える」ことの効果は本当に大きなもので、次の3つが期待できます。
1)入社後にその「駄目なこと」に遭遇したときには既に心構えができているので、本人の精神的ダメージが少ない。
2)駄目なところを知って自分の意思で納得して入社する人だけが残り、そうでない人は自分から辞退するので、あなたの会社とのマッチングの良い人だけを残すことにつながる。
そのためにはある程度早い段階で伝えることも必要です。
なぜなら、契約や入社手続きなど本人が他社を断ってしまっていて、後に引けない段階で「駄目なところ」を伝えたら、後出しジャンケンになってしまい、プラスの効果が全くないばかりか、「騙された」としか思われず、まさにこの瞬間からこの人の「退職」がスタートを切ってしまうのです。
後に引けない段階で「駄目なところ」を伝えることは、入社後に「駄目なところ」を感じ取ってしまった社員と同じように、会社にとってマイナスの影響はたくさんありますが、プラスはひとつもありません。
あなたの会社を選ぶか選ばないか、応募者が決めることができるうちに「駄目なところ」を伝えてください。
3)「誠実な会社だ」という印象を持たせる効果がある。
本当は伝えなくても良いことだけれど「あなたには正直に伝えます」という風に伝われば、かなり効果的です。
このあたりの細かいテクニックは「何を」「どういう風に」伝えるのかを考えてみてください。
言い訳がましく聞こえたら逆効果なので気を付けてください。
合格者を決める2つの原則とは
各選考プロセスで合否の判断をすることになりますが、判断に迷った時の原則が2つありますので覚えておいてください。
1)書類選考から適性検査や1次面接など、最終選考のひとつ前までの判定でもし迷ったら「原則合格」を徹底する。
2)最終選考で社長が判定に迷ったら「絶対不合格」が原則。
1)については、応募者が多すぎて採用業務の人手が足りない場合はなど、止むを得ないこともあります。
それでも限られた応募者の中から最適の人を採用するためには「人には気付かれにくい強みや可能性が必ず1つ以上ある」という姿勢で、迷った場合には次のプロセスへ判断を後回しにするのが原則です。
いっぽう2)については、日本の法律では一度採用したひとを簡単には解雇できないので、くれぐれも慎重に判断してください。
条件提示から入社手続での落とし穴
給与に関する条件については、あなたの会社の基本的な考え方があると思います。
中途採用の場合に良い人材であれば前職の金額を考慮して、何としても採りに行くという会社もあれば、賃金規定がありその枠の中で提示して駄目なら採らないという会社もあるでしょう。
前者の場合は既存社員の間に不平不満が出てしまわないような配慮が必要になりますし、後者は本当に良い人材を採用しづらいという、それぞれメリットデメリットがあります。
そして、最終的にあなたの会社と応募者の間での意思確認(雇用契約)の前後の手続きを、きちんと進めるように気を付けてください。
少し専門的な話になりますが「労働基準法第15条」で決められている労働条件を明示するときの「書面の交付」をしていなかったり、それが初出勤の日に他の手続きとまとめてやるようだと、問題が起こりやすいので気を付けてください。
契約の内容によっては後出しジャンケンになってしまい、結果的にせっかく採用したひとが辞めてしまうことにつながるので、充分に注意が必要です。
最近は応募者もインターネットから色々と法律の知識を得ています。もしこれまでの対応が法令どおりになっていないようであれば、入社手続き部門のマニュアルを改めるだけで、すぐに解決できるので是非取り組んでください。
社員が辞めてしまう時の共通の特徴とは
さて、これまで会社の良い点と悪い点をしっかり伝えて納得してもらった人たちの中から、物事の見かたや捉え方が「外向き」で、すぐには「辞めない」社員を採用する方法をお伝えしてきました。
この一連の「辞めない採用」を実行すれば、離職率を大幅に下げてコストを抑えることができます。
でも、日頃からあることに気を付けていないと、突然「辞表」を持ってくる社員を根絶することはできません。
そのあることとは「手遅れ」になる前に、小さな不安や不満を「聴きだす」ことです。
あなたの会社には、上司や先輩社員が日常的に部下や後輩の不安や不満を聴きだして、解決につなげるような風土はありますか。
昔のように、飲みニュケーションを通じて部下との信頼関係が維持できている会社は少なくなっています。
今は、不安や不満を抱えた社員が誰にも相談せずに、ひとり悶々と悩みを膨らませてしまう傾向があります。
だからある日突然・・・となるのです。
社員がとつぜん辞めてしまうのを防ぐ3つのポイント
ではどうすれば「ある日突然・・・」を防ぐことができるのでしょうか。
まずは、「声をかけて聴いてみる」ことを上司や先輩社員の「仕事」として強制することです。
これからあげる3つのことを「仕事」としてスケジュールに入れてしまうと良いでしょう。
定期面談
強制的にでも定期面談をすることは効果的です。面談をする上司や先輩社員のスキル向上にもつながります。
初めにその目的を社長から全社員へ伝えることも重要で、それだけでも若い社員にとっては「良くしようとしてくれている」と感じるものです。
残念なことですが、最近の若い社員はコミュニケーションの場も会社が用意してくれるのを待っているくらい受け身なのが現実です。
定期報告
「定期的」に面談をしたらその内容を「定期的」に報告させます。
報告を受ける際に「ホンネを聴きだすように接しているか」それとも「形だけの面談で終わっているか」も指導してあげることで、管理職(候補者)に対するとても良い実地訓練になります。
報告の内容を深掘りすれば、部下から本音を打ち明けられているのかそれとも上辺だけのやり取りなのかはわかります。
ただし、2人の相性の問題もあるので、これが上手くいかないからと言って、このことだけで上司や先輩社員にレッテルを張ることのないように気を付けてください。
素早い対応
報告の中から少しでも異変を感じたら、些細なことでもしっかり対応することが大切です。この些細な行動そのものが、社員の安心感や信頼感に確実に影響してきます。
初めはぎこちないかもしれませんが、これを仕組化することで上司も部下も次の3つの点で確実に成長します。
1)上司(先輩)は聴き方(話させ方)が上手くなる
2)部下(後輩)は話し方(打ち明け方)が上手くなる
3)上司(先輩)は社長や上司への報告の仕方が上手くなる
悩める部下たちは聴かれないから言わないだけで、聴かれれば意外とポロポロ話すものです。低次元の話と感じるかもしれませんが、これが現実です。そうなった主な理由は次の2つです。
ひとつは、スマホやメールの利用などデジタル機器でのコミュニケーションが浸透したことで、若い世代の対人スキルが急速に低下していること。特に同世代以外とのコミュニケーションが下手な人が増えています。
もう一つは、生産性を上げるために仕事の効率化ばかりが重視され、仕事中に周り人の心の機微に気を配る余裕がなくなり、いつしか先輩も上司も自分の事で手一杯となってしまったためです。
辞めない人材に育てる9つのコミュニケーション
まずは面談することを仕組化したら、最後に上司や先輩社員の面談の質を高めるために使える「フレーム」を紹介しますので参考にしてください。
基本は「聴く」のが先で「伝える」のが後です。
これは順序の問題だけでなく優先度が全く違います。優秀な営業がこれを実践しているのと同じです。
聴く
①希望を聴く
②不安を聴く
③不満を聴く
この3つは本人の気持ちを受け止めるということです。
あくまで聴く事に徹するのが大事で、この時同時に上司から仕事上の期待や指示を伝えてはいけません。
伝える
④期待を伝える
⑤感謝を伝える
⑥称讃を伝える
この3つは仕事上の期待を伝えるということです。
この段階ではこちらの意志を伝えることが重要です。「ただ聞かせただけ」でも大丈夫です。
腹落ちさせる
⑦理由を腹落ちさせる
⑧目的を腹落ちさせる
⑨目標を腹落ちさせる
この3つが本当の意味で仕事の動機づけをはかる部分です。
時間はかかりますので、一朝一夕には結果がでませんが、⑦⑧⑨の3つは急な退職を防ぐというより、長く会社に貢献する人材をじっくり育てていく効果が大きいですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。